税制非適格ストックオプション(いわゆる1円SO)は、税率の高さや二重課税といったデメリットがある一方、実務上は一定の場面で選択される制度です。本コラムでは、税制非適格SOがどのようなケースで活用されるのかをテーマに整理したものです。
1 税制非適格SOが活用される場面は限定的
税制非適格ストックオプションは、
- 権利行使時に給与所得課税(最大約55%)
- 株式売却時に譲渡所得課税(約20%)
- キャッシュイン前に税負担が発生する
といった性質を持つため、積極的に利用されるケースは限定的です。
そのうえで、実務上明確に活用される場合として、次の2つが紹介されています。
2 退職金代わりに付与する「退職型1円ストックオプション」
主な活用場面は、退職金代わりの1円SOです。
(1)給与所得ではなく退職所得として課税される設計
税制非適格SOの権利行使時の所得は通常「給与所得」とされますが、
次の条件を満たす場合には「退職所得」として扱われます。
- 権利行使が退職した場合に限って認められる設計
この場合、退職所得として
- 2分の1課税の特例
- 分離課税の対象
などが適用され、税負担が大きく抑えられます。
そのため、実務において税制非適格ストックオプションを活用する場合には、通常、退職型の1円ストックオプションになります。
(2)高い税率が避けられるメリットが大きい
給与所得として課税されると最大約55%の税率が適用されますが、退職所得とすることで負担が約半分まで抑えられることがあります。
そのため、退職時点での報酬として株式価値を付与したい場合に選択されている制度です。
3 税制適格SOが途中から非適格に転じるケース
もう一つの活用場面は、「本来税制適格SOとして設計していたが、途中で要件を満たせなくなったケース」です。
代表例として次の場面が挙げられます。
(1)年間行使価額1,200万円を超えた場合
税制適格SOには、
- 年間権利行使価額1,200万円以下
という厳しい条件があります。
例えば、
- 既に年間1,000万円を行使していた
- 同年内にさらに500万円を行使した
というような場合、次のような扱いになります。
- 500万円のうち、超過した300万円だけが非適格になるのではない
- 追加行使分500万円全体が非適格として扱われる
この「全額が非適格になる」という取扱いになります。
(2)一度非適格となったら適格に戻れない
一度、要件を満たすことができなくなり、税制非適格ストックオプションになった場合には、その後に要件を満たすことができたとしても、税制適格ストックオプションに再区分することはできません。
つまり、税制適格SOとして出発したストックオプションであっても、
- 行使タイミング
- 行使価額
- その他要件
によって非適格に移行すると、制度としては「戻れない」のが実務上の取扱いです。
4 まとめ
本記事は、「税制非適格ストックオプションの活用場面」について解説しました。
結論として、活用されるケースは次の2つに限られます。
- 退職金として活用する退職型1円ストックオプション
退職所得扱いにより税負担が大きく軽減される。 - 税制適格ストックオプションが要件を外した結果、途中から非適格になるケース
特に年間行使価額1,200万円の条件を超えた行使が典型的。
税制非適格SOは設計自由度が高い一方、課税が重くなる可能性もあるため、制度の導入・設計にあたっては慎重な検討が不可欠です。
※本記事は一般的な制度説明であり、個別の税務判断を行うものではありません。
税務判断や税額計算が必要な場合は、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
ストックオプションの設計及び評価に関するご相談は、ストックオプションアドバイザリーサービス株式会社までお問い合わせください
