「税制適格ストックオプション(SO)」は、税務上のメリットが大きい一方で、適用要件が厳しく、制度設計の柔軟性が制限されます。
そのため近年では、あえて「非適格SO」を選択し、自由度を重視した設計でストックオプション制度を導入する企業が増えています。
本記事では、非適格SOの基本的な仕組みや、あえて非適格を選ぶ理由・具体的な活用場面をFAQ形式で解説します。
【FAQ】
Q1:非適格ストックオプションとは何ですか?
A:税制適格SOのように、所得税法上の優遇措置を受けないストックオプションです。
付与時や行使時に給与課税が発生する可能性がある反面、以下のような制度設計の自由度が高いことが特徴です。
- 対象者を制限しない(外部協力者、顧問、取引先なども可)
- 行使価格を柔軟に設定できる
- 保管委託などの形式的な要件がない
Q2:あえて非適格SOを選ぶのはどんな場面ですか?
以下のようなケースで有効に機能します。
ケース | 非適格SOを選ぶ理由 |
---|---|
社外役員・顧問への付与 | 税制適格SOでは対象外のため |
上場予定がない企業 | 税制適格は上場前提の制度設計が多いため |
柔軟な報酬設計が必要 | 行使価格や行使期間を自由に設定したい |
短期での行使・換金を予定 | 複雑な要件を満たすより、スピード重視 |
M&AやEXITを前提とした設計 | 時価評価や契約上の調整がしやすい |
Q3:非適格SOのデメリットは?税金はどうなる?
最大のデメリットは、行使時に給与所得として課税される点です。
タイミング | 課税内容 | 税率例 |
---|---|---|
行使時 | 給与課税(源泉徴収) | 最大55%(所得税+住民税) |
売却時 | 譲渡所得 | 約20.315%(分離課税) |
特に役員や高額行使者の場合、キャッシュアウトが伴う高負担となる可能性があるため、あらかじめ税務シミュレーションが必須です。
Q4:非適格SOを設計する際の戦略ポイントは?
- 対象者選定の自由を活かす
→ 顧問、技術支援者、業務委託先などにも付与可能 - 行使価格を戦略的に設定する
→ 現時点の時価、将来想定の上限、M&A想定額などを反映して設計 - 行使期間を柔軟に調整する
→ たとえば3年後のEXITまでに制限を設ける、など - 課税タイミングを踏まえて現金報酬と組み合わせる
→ 行使時の給与課税に備えて、現金報酬やEXITボーナスとの組合せを設計 - 有償SO(有償ストックオプション)との併用を検討する
→ 権利確定性を強めたり、株式価値と報酬性の分離を狙う戦略も
Q5:税務調査で否認されることはありますか?
A:非適格SO自体は合法的な制度であり、要件も明文化されているため適法に設計すれば問題ありません。
ただし以下の点に注意が必要です:
- 時価評価の妥当性(著しく低い価格での付与は否認リスクあり)
- 業務委託先などへの付与が「役務提供と無関係」と見なされる場合
- 行使価格ゼロや高すぎるディスカウント設定など、「報酬性」を否定できない設計
税務当局から「実質的に給与」とみなされると、追加課税や追徴が発生することもあるため、専門家による事前設計が重要です。
【まとめ】
税制適格ストックオプションに比べると、非適格SOは税務面でのメリットは少ないものの、柔軟な設計と対象者の自由度が最大の魅力です。
制度設計時には、企業のステージ・目的・対象者の属性・EXIT戦略などに応じて、非適格SOの活用を検討することは非常に有効です。
特に、「上場を前提としないM&A型EXIT」「業務委託者等へのインセンティブ」「税制適格の枠外で設計したい」などの場面では、非適格SOが合理的な選択肢となります。