税制非適格ストックオプション(1円SO)は、税制適格ストックオプションとは異なり、権利行使時に給与所得課税(または退職所得課税)が生じる制度です。実務では、付与対象者側・発行会社側の双方で税務上の判断が必要となるため、税務処理の全体像を把握することが不可欠です。
この記事では、「税務上の取扱い」について一般論をご紹介いたします。
※本記事は、公開されている情報に基づく一般的な制度説明です。ストックオプションの税務判断は事案により大きく異なるため、具体的な税額計算や税務判断は税理士などの専門家に必ずご相談ください。
1 付与対象者個人の税務上の取扱い
税制非適格ストックオプションの付与対象者における課税関係は、
①付与時
②権利行使時
③株式売却時
の3段階に分けて整理されます。
① 付与時の取扱い(通常は課税なし)
無償で付与されるが、付与時点では 通常課税されない。
理由は、税制非適格SOには多くの場合 譲渡制限が付されており、経済的利益が実現していない と考えられるため。
※譲渡制限を外した場合には、その時点で課税が発生する。
② 権利行使時の取扱い(給与所得 or 退職所得)
権利行使時の課税額は、次の算式で求められる。
(権利行使時の株価 ― 行使価額)× 株式数
原則、**給与所得として総合課税(最大約55%)**が適用。
ただし、
- 権利行使が「退職時に限り」認められる設計
の場合には 退職所得として取り扱われる。
退職所得とされれば、
- 2分の1課税の特例
- 分離課税の扱い
が適用され、税負担が大きく軽減される。
実務では、1円SOの多くがこの「退職型」を採用している。
③ 株式売却時の取扱い(譲渡所得)
株式を売却した場合の課税額は次の算式。
(売却価格 ― 権利行使時の株価)× 株式数
一律約20%(申告分離課税)で処理される。
2 発行会社の税務上の取扱い(法人税)
発行会社側では、ストックオプション付与に関する費用の損金算入が問題となる。
● 損金算入のタイミング
付与対象者個人に
給与所得課税または退職所得課税が生じた時点
で損金算入が可能。
これは、会社が役務の提供を受けたとみなされるため。
● 役員に付与する場合の注意点
役員に付与する場合は、
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
といった 役員給与の損金算入要件を満たす設計が必要。
● 申告書の添付明細
損金算入する場合、法人税申告書に
別表14(三)「新株予約権に関する明細書」
を添付する必要がある。
3 その他の税務上の留意点
(1)源泉徴収義務
権利行使時の所得(給与所得または退職所得)は、
源泉徴収の対象。
ただし、行使時には会社から金銭の支払いが発生しないため、
源泉徴収税額を別途役員・従業員から徴収する必要がある。
(2)社会保険料の対象外
ストックオプションの権利行使による経済的利益は、
健康保険・厚生年金保険の「賃金」には含めない扱い(通達:平9.6.1基発412号)。
したがって、
社会保険料算定の対象には含めない。
無駄な保険料負担が発生しないよう、給与計算担当者との連携も不可欠。
4 まとめ
税制非適格ストックオプションの税務上の取扱いは、
付与対象者個人/発行会社/源泉徴収・社会保険
の3つの視点で整理する必要があります。
- 付与時は通常課税なし
- 権利行使時に給与所得 or 退職所得
- 売却時に譲渡所得
- 発行会社は、給与等課税事由が生じた時点で損金算入
- 源泉徴収が必要
- 社会保険料の対象外
具体的な税務判断は専門家による確認が不可欠です。
本記事はあくまで一般的な情報提供であり、個別の税務判断を行うものではありません。必ず税理士等の専門家にご相談ください。
