スタートアップ企業では、資金調達手段として「J-KISS型新株予約権」が広く利用されています。
これは法的には新株予約権ですが、経済的な性質としては優先分配を受ける株式と同様の権利を有しており、ストックオプション(SO)の制度設計や株価評価に直接的な影響を及ぼします。
J-KISS型新株予約権とは?
J-KISS型新株予約権は、投資家が払込金額を出資し、将来的に株式に転換できる新株予約権です。
大きな特徴は、残余財産の優先分配を受ける権利が付されている点にあります。
そのため、経済的には「優先株式」と同等の取扱いを受けることになります。
税務上の位置づけ ― 優先株式としての評価
国税庁Q&Aでも明示されているとおり、J-KISS型新株予約権は優先株式と同様に扱って差し支えないとされています。
したがって、税制適格SOの行使価額要件を確認する際には、普通株式の評価にあたって以下のプロセスを取る必要があります。
- 純資産価額を算定
- 優先株式およびJ-KISS新株予約権に配分される分を控除
- 残余部分を普通株式に按分して1株当たり価額を計算
普通株式評価への影響
J-KISS型新株予約権を「普通株式扱い」で評価してしまうと、
- 優先分配分を控除せずに残余資産を按分
- 普通株式1株当たり価額が実態より低く算出される
- 結果として行使価額が「時価未満」となり、税制非適格SOに判定されるリスク
という誤りが生じます。
つまり、J-KISSを優先株式として正しく評価することは、適格要件の維持に直結します。
実務上のチェックポイント
- 投資契約・新株予約権の内容確認
- 優先分配権が付されているかを確認
- 評価計算での控除処理
- J-KISS分配を差し引いた残余を普通株に按分
- 監査法人・税理士との連携
- 税務・会計双方で整合性を確認
まとめ
J-KISS型新株予約権は、法形式上は新株予約権ですが、実質的には優先株式と同様に評価しなければなりません。
普通株式評価の分母・分配構造を誤ると、税制適格SOの要件を満たさず、行使時に給与課税が生じるおそれがあります。
制度設計時には、必ず契約内容に基づいた株価評価を行い、専門家のチェックを受けることが肝要です。