企業の合併や株式交換などのM&Aが行われる際、発行済のストックオプション(SO)をどのように扱うかは、実務上の重要な論点です。
SOの権利関係は会社法上も厳格に扱われており、対応を誤るとSOが消滅したり、税制適格性を失うおそれがあります。
1. ストックオプションが消滅するケース
会社法では、合併・会社分割・株式交換などの組織再編に際して、
新株予約権者の権利が害される場合には、救済措置を講じる必要があるとされています(会社法第780条等)。
消滅の主な原因は次のとおりです。
- 存続会社がストックオプションを引き継がず、無償取得条項を発動して権利を消滅させる場合
- 合併契約や株式交換契約で、新株予約権の承継に関する明示的な定めがない場合
- 税制適格SOであっても、組織再編時に条件を満たさない取扱いがされた場合
2. 消滅を回避する方法
- 新株予約権を存続会社・親会社のSOに引き継ぐ(移転型)
- 経済的価値・行使条件を維持したまま、新会社のSOとして承継させる
- 対価として代替の新株予約権を付与(交換型)
- 元のSOの評価額に応じて新たなSOを発行
- 現金精算方式
- 権利者に対し、権利の経済的価値相当額を金銭で支給
いずれの場合も、既存SO保有者に不利益がないように調整する必要があります。
3. 税制適格SOの非適格化リスク
M&Aにより、もともと税制適格だったSOが非適格化することがあります。
特に以下の点に注意が必要です。
- 発行会社の存続がなくなる(合併・株式交換等)
- 行使価額が再設定されるなど、付与条件に変更が加えられる
- 承継会社の株式が適格要件(上場・非上場条件)を満たさない
→ これらの場合、税制適格SOとしての特例が適用されず、行使時に給与課税(最大55.945%)が発生する可能性があります。
4. 実務上の留意点
- M&A契約書に新株予約権の取扱い条項を必ず明記する
- 組織再編前に、ストックオプション原簿や付与契約書を確認し、権利者ごとの対応方針を整理
- 税務上の取扱い(適格・非適格)を会計士・税理士と事前確認する
- 権利者への説明責任と同意取得を怠らない
まとめ
M&Aでは、ストックオプションの取扱いが極めて重要です。
権利を適切に承継しなければ、SOが消滅したり、税制適格性を喪失するリスクがあります。
事前の法務・税務・会計の三位一体での検討が不可欠であり、
契約書への明記・権利者説明・専門家連携が、トラブル回避の鍵となります。